米国シノプシス
Product Management & Markets Group
Segment Mgmt Mgr
Sr Staff Ron DiGiuseppe
SiMa.ai社とシノプシスは先ごろ、自動車メーカー(OEM)がエントリーレベルからプレミアム・モデルまで、複数の車両プラットフォームに対してAIアプリケーションをスケーラブルに展開できるように支援するための協業を発表しました。AIは、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)や車線維持支援システム(LKA)、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)などの先進運転支援システム(ADAS)に不可欠な存在となっています。しかも、OEMがアプリケーションの自動化レベルをレベル2++やレベル3からレベル4、レベル5の完全自動運転へと引き上げていくにつれ、搭載されるAIの量も増えていきます。また、ドライバー・モニタリング・システム(DMS)やコックピット・デジタル・アシスタントなどさまざまな車載インフォテインメント(IVI)アプリケーションでも、ChatGPTやDeepSeekなど最新世代の生成AI(GenAI)の採用が広がっています。自動車業界がこれらのアプリケーションに最新のAIを導入する一方で、車載システムを統合する電気電子(EE)アーキテクチャは新しい集中型ゾーン・アーキテクチャへと進化しつつあります。この新しいアーキテクチャでは、より高度なAIを中央の高性能演算モジュールに統合できます。
集中型コンピューティングの採用が広がってくると、中央に配置される演算モジュールはさらなる複雑さを管理し、複数のアプリケーションを同時に実行することになるため、これまで以上の性能を必要とします。また、集中型アーキテクチャの採用が進むにつれ、自動車メーカーが新しい車両プラットフォームを投入するペースも加速しています。従来のOEMは車両プラットフォームの投入に7年間を要していましたが、新興EVメーカーの多くはソフトウェア定義型車両(SDV)フレームワークを使用することで、これを3年間に短縮しています。
では、開発期間とコストの削減が続く中で、OEMがエントリーレベルからミッドレンジ、そしてプレミアム・ラインまであらゆる車種に対してSDVの手法を活用して、性能の向上、複雑さへの対処、消費電力の削減、そして進化が続くAIアルゴリズムへの適応を果たすには、一体どうすればよいでしょうか。
2024年12月に発表されたこの提携1は、シノプシスのエレクトロニクス・デジタル・ツイン(eDT)モデリングとSiMa.aiの完全なMLソフトウェア・スタック・アプリケーション開発環境を組み合わせることにより、IP、サブシステム、チップレット、およびSoCのカスタマイズを最大限にサポートするスケーラブルなAIベースのアプローチを提供します。
「SiMa.ai社とシノプシスの協業は、コストと複雑さが高まり続けている車室内体験の実装において、自動車メーカーがハードウェア/ソフトウェア協調設計プロセスをどのようにモダン化できるかを示しています」と、Ravi Subramanian(シノプシスProduct Management and Markets Group最高責任者)は述べています。効率的なハードウェア/ソフトウェア協調設計環境を利用することで、急速に進化するAIアルゴリズムを導入し、ADASおよびIVIアプリケーション用にワークロードを最適化した車載向け機械学習SoCおよびチップレットを短期間で開発できるようになります。この協業によって提供されるソフトウェア定義による半導体アーキテクチャ解析および検証プラットフォームは、アーキテクチャ検討からソフトウェア・シミュレーション、ハードウェア・ベース・エミュレーションまでを含むエンドtoエンドのワークフローをサポートし、オプションでカスタムSoCおよびチップレットの開発も可能です。この高性能アーキテクチャは、SiMa.ai社の業界をリードするAI MLSoCをベースにして、特定用途向けに構築したものです。これにより、顧客はSiMa.ai社とシノプシスの両社から提供されるIPビルディング・ブロックを利用して、SiMa.ai社のリファレンス・アーキテクチャをベースにしたカスタムSoCまたはチップレットを開発できるようになります。
SoCやチップレットのアーキテクチャを早期段階で最適化するには、シノプシスPlatform Architect(PA)を使用し、実チップの完成前に車載ソフトウェア開発に使用するSoC/チップレットのモデルを作成します。Platform Architectには、ワークロードをLLMアルゴリズムに最適化する機能や、メモリー帯域幅/容量の検討を最適化する機能があります。さらに、Virtualizer Development Kit(VDK)を使用して開発早期段階でのソフトウェア開発とRTL完成前の性能解析を行った後、ZeBuを使用してRTL完成後のエミュレーションを実行し、サブシステムの性能と消費電力の妥当性を検証することにより、SDVシステム開発はさらに加速します。
早期ソフトウェア開発と並行して、SiMa.ai社のSoCリファレンス・デザインをベースとしたSoCまたはチップレットのハードウェア・アーキテクチャを計画できます。SiMa.ai社とシノプシスの協業では、SiMa.ai社の完全なモノリシックMLSoCを発展させたSoCベースのオプションとマルチダイ・ベースのオプションが提供されます。これにより、スケーラブルな半導体戦略を求めているお客様は最高水準の柔軟性を手にすることができます。
自動車業界がマルチダイ技術を導入してチップレット・ベースの半導体を設計するようになったことで、設計工数、時間、コストを最小に抑えながらOEMが求めるスケーラブルなシステムを実装できる可能性が開けています。図2に、高性能なベース・ダイとAI/IVIアクセラレータ・ダイの各チップレットを相互接続したマルチダイ・システムを示します。こうすれば、単一のハードウェア・プロセッサ・アーキテクチャおよびソフトウェア開発環境に基づいて、各種OEMプラットフォームをスケーラブルに展開できます。車載グレードのカスタム半導体向けにFinFETベースの高性能で複雑なADAS/IVIプロセッサを設計するには高度な技術力が要求され、開発コストも高騰します。しかし、I/Oデータ・チャネル、DSP、アプリケーション・ホスト処理などの複雑な機能の多くをベース・ダイに作り込み、最先端のAI処理をAI/IVIアクセラレータ・チップレットに実装すれば、コストと複雑さを最小限に抑えられます。
独自機能を搭載したカスタムSoCを設計する場合は、SiMa.aiのリファレンス・プラットフォームに対して事前に定義されたダイ間インターフェイスUCIe、高度な電源およびシステム管理機能、デバッグ・トレース、およびブート・セキュリティで構成されるベース・ダイ・リファレンス・アーキテクチャにシノプシスのIPを組み合わせることで、高度な機能を実装できます。
SiMa.ai社とシノプシスの協業は、欧州連合(EU)の取り組みの一環としてimecが主導するACP(Automotive Chiplet Program)2や、日本の自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)3など、自動車業界のさまざまなイニシアチブによって研究が進められている各種マルチダイ・チップレット・アーキテクチャを補完するものです。imec、ASRA、UCIeコンソーシアムの自動車ワーキング・グループなどによってチップレット・ベースのアーキテクチャ定義が進められる中、ADAS/自動運転およびIVIアプリケーションにAI機能を短期間で追加するための次世代のスケーラブルなチップレット・ファミリには、UCIeベースのマルチダイ・アーキテクチャの採用が計画されています。マルチダイ・ベースのSoCアーキテクチャなら、ベース・ダイはそのままでAIチップレットだけを短いサイクルでアップグレードできるため、車載向けのカスタムAIソリューションの設計と開発を加速できます。
カスタム戦略を遂行するため、自動車メーカーは最高の性能を最小のリスクで提供できるテクノロジ・リーダーとの提携を模索しています。シノプシスが提供する車載グレードのインターフェイス(UCIeインターフェイスIPなど)、セキュリティ、DSPプロセッサおよびファウンデーションIP、そしてSiMa.ai社が提供するMachine Learning Accelerator(MLA)AI IPおよび高性能ベース・ダイ・アーキテクチャを利用することで、複雑なモノリシックSoCやマルチダイ・デザインに向けたカスタム・ソリューションを開発することができます。
自動車業界の顧客がMLモデルの選定から開発、学習、運用までを手がけるには、包括的なソフトウェア・スイートが欠かせません。MLモデルには膨大な数が存在する上、新しいモデルの開発ペースも非常に速いため、顧客が最新かつクラス最高のモデルを利用できるようにするには、アーキテクチャの柔軟性が特に重視されます。図3に示すSiMa.ai社のPalette™ SDKを使用すると、どのようなMLモデルでも、フォーマットにかかわらずMLA上で効率よく動作するようにコンパイルできます。このSDKにより、データ・セットの精度を最大限に高めながら性能と消費電力を最適化できます。
図4に、SiMa.ai社のカスタマイズ可能なベース・ダイおよびAIチップレット・アーキテクチャの使用例を示します。
業界をリードするSiMa.ai社とシノプシスの協業は、複雑なモノリシックSoCまたはマルチダイ・デザインに向けたカスタマイズ可能なソリューションを提供します。シノプシスの設計サービス専門チームは、SiMa.ai社と緊密に連携してカスタム・ソリューションの実装と最適化を支援します。SiMa.ai社とシノプシスの協業により、自動車メーカーのADASおよびIVIシステムに向けたスケーラブルなAIソリューションの実装に必要な期間が最短化されます。
参考文献
[1] Synopsys and SiMa.ai Announce Strategic Collaboration to Accelerate Development of Automotive Edge AI Solutions(2024年12月)
[2] Automotive Chiplet Program
[3] 自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)