先端ノードのGAAプロセスへのPVTモニターIPの対応

米国シノプシス
Product Management & Markets Group

Sr Staff Rohan Bhatnagar


プロセス・テクノロジが進化を続ける中、設計ツールとIPの側にも進化が求められています。そうした進化が必要とされる一つの例として挙げられるのが、PVTモニターIPです。チップ内に埋め込まれたプロセス/電圧/温度(PVT)モニターは、フィールドでの本番稼働を含め、シリコン・ライフサイクルのあらゆる段階でシリコンの稼働状態をフィードバックします。PVTモニターから収集したデータを利用することで、差し迫ったチップ故障をいち早く予測したり、世界中で稼働するチップ状況を監視して全体的なトレンドを追跡できます。

 

ではここで、急速に進化する半導体テクノロジの世界に目を向け、GAA(Gate-All-Around)と呼ばれる革新的なトランジスタへの移行について詳しく見てみましょう。GAAトランジスタは従来のトランジスタの限界を打ち破り、チップ設計に革命をもたらそうとしています。ムーアの法則はこれまで知られている中で最も正確な予測モデルであり、今やオングストローム(Å)ノードの時代へと突入しつつあります。先端ノード・プロセスで設計および製造されるチップをサポートするには、半導体エコシステムも適応していく必要があります。

FinFETからGAAへ至るまでの簡単な歴史

22 nmノード世代で登場したFinFETは、フィン構造の3面をゲートで取り囲むことでチャネル制御性を高めたもので、従来の平面トランジスタから大きな飛躍を遂げました。ところが、5 nmや3 nmノードへと進むにつれ、FinFETは駆動電流、静電気制御、リーク電流の課題に直面するようになっています。

 

そこで登場したのがGAAトランジスタです。このトランジスタはチャネルの全周をゲートで取り囲む革新的な構造を採用しており、さらなる微細化に対応できます。以下に、GAAトランジスタの2つの重要な側面について考察します。

  1. ナノシート:初期のGAAデバイスは垂直方向に積層したナノシートを利用します。これらのシートは複数の水平レイヤーで構成され、それぞれがゲート材料で取り囲まれる構造になっています。FinFETで電流量を大きくするには複数のフィンを横に並べる必要があるのに対し、GAAトランジスタではわずかな数のナノシートを垂直方向に積層することで電流容量を増やすことができます。このように電流量を柔軟に調整できるため、トランジスタの性能目標を達成しやすくなります。

  2. チャネル制御:GAAトランジスタはFinFETに比べてチャネル制御性に優れています。チャネルの全周をゲートで取り囲むことで短チャネル効果が緩和され、ゲートが接触していなかったデバイス底部からのリーク電流を抑えられます。今後微細化が進むとナノシートの寸法も縮小され、最終的にはナノワイヤに似たようなものになっていくと考えられます。

利点と課題

GAAトランジスタには大きな利点があるため、先端ノードでこの優れた構造への移行が進むことは間違いありません。しかし移行を成功させるには、従来の回路設計プロセスにも進化が必要です。デジタル設計者にとって朗報なのは、GAAトランジスタはデジタル回路と非常に相性が良いという点です。チャネル制御性と拡張性の向上により、効率的なロジック・ゲートとメモリー・セルが可能になります。GAAを採用することで、デジタル回路は性能の向上と消費電力の削減という恩恵を受けることができます。

 

GAAトランジスタは主にデジタル・アプリケーションをターゲットとしており、アナログ・デザインへの適応も可能なものの、そのメリットはデジタル・アプリケーションの場合ほど明確でなく、デジタル回路と同レベルの精度を達成するのは困難なことがあります。アナログ設計者がGAAトランジスタの利点を活かすためには、革新的な手法を模索する必要があるでしょう。例えば、現在主にミックスドシグナル・アプリケーションで使用されているBJTなどのバイポーラ・デバイスは、今後あまり使われなくなる可能性があります。

 

デザインの変更は避けられませんが、得られるメリットを考えれば、その価値は十分にあります。GAAの導入を成功させるには、製造プロセスの変更も必要であることを認識することが重要です。ナノシートは概念としては単純ですが、消費電力、性能、面積、コスト(PPAC)のスケーリング目標を達成するには、精密構造の加工や新材料の導入など、製造上の新しい課題に直面します。

GAAに対応したPVTモニターIP

PVTモニターIPが時代を先取りして新しいGAAトランジスタに適応していくには、その設計を再定義する必要があります。このような適応が必要とされるのは、現在、特性評価済みのバイポーラ・トランジスタ(BJT)および厚膜酸化膜FETが存在しないためであり、このことがセンシング技術のデジタル化を促す要因となっています。簡単に言えば、適応と進化によって生き残りを図るのか、それとも急速に重要性を失っていくのか、どちらかしかありません。

 

デジタル化には、面積/フットプリントの縮小だけでなく、センサーからの出力信号をアナログ信号のようにノイズ/クロストークの影響から保護する必要がなくなるという利点もあります。デジタル・パラダイムへシフトすれば、アナログ・ワイヤ・シールドのようなものは不要になります。

 

システム・オン・チップ(SoC)およびIPベンダは、アナログに匹敵する正確度を維持するための革新的な方法を見つける必要があり、この部分が今後の差別化要因となっていきます。

センシングのデジタル化が業界にもたらす恩恵は消費電力の削減や変換レートの高速化だけにとどまりません。PVTモニターIPの実装が容易になるため、より多くの遠隔センサーを目的の測定対象の近くに柔軟に配置できるようになります。温度センサーの場合、ホット・スポットのより近くにセンサーを配置すると温度勾配の影響を最小に抑えられます。また、複数のセンサーを配置すれば、三角測量によって精度をさらに高めることができます。このように、デジタル化にはどこから見ても利点しかありません。

まとめ

現在進行中のGAAトランジスタ革命は、FinFETの限界を打ち破り、ムーアの法則を前進させることが期待されています。ほとんどの業界オブザーバーは、この革命の波に乗ることはすべてのチップ、IP、SoC開発者およびファウンドリにとって不可避であるとの見方で一致しています。製造プロセスと装置については、特に業界全体で真の3Dデバイスの受け入れが進むにつれ、必要に応じて進化していくと考えられます。すべてのチップ設計エンジニアは、半導体テクノロジの新時代に向けて準備を整えておく必要があります。シノプシスSLM PVT Monitor IPの詳細をご参照ください。