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today&tomorrow

Technology Update

2018 vol.111

新時代のチップ設計に向けたシノプシスのビジョン

自動車、人工知能(AI)、IoT(Internet of Things)、5Gワイヤレス、仮想/拡張現実(VR/AR)などの新しい市場要因により、半導体業界は今、新時代のチップ設計への移行期に差しかかっています。近年、私たちを取り巻く世界と直接やりとりする新しいアプリケーションが増えています。これらのアプリケーションがセンサーから情報を収集し、大量のデータを処理し、獲得した知見に基づいてリアルタイムにインテリジェントな行動を実行するには、これまでとはまったく異なるチップ・ハードウェアが必要となってきます。

高精度なセンサーを使用した膨大なデータの収集、学習、移動に必要な処理性能を確保し、リアルタイムにインテリジェントな行動を実行するためには、チップ設計技術に飛躍的な革新が必要です。人間の脳と同じようにふるまい、人間の耳と同じように聞き、人間の目よりも高性能な視覚を持ち、人間の手足と同じように動く新しいアーキテクチャを開発することに設計者は大きな夢を描き、このことが完全に新時代のチップおよびシステム・オン・チップ(SoC)の登場を促しています。これらの新しいデザインではチップの性能、消費電力、面積(PPA)および開発期間に対する要求が従来に比べ格段に厳しくなっており、伝統的なRTL-to-GDSII設計フローでは対応が困難になりつつあります。

この新時代のチップ設計を契機に大きな変革の時代が到来し、従来のEDAフローに完全な刷新が求められるようになっています。

半導体技術が着実に進歩を続ける中、EDA業界も全力を挙げてこの進歩に追随しています。しかしその取り組みのほとんどは、これまでに確立された設計メソドロジの上に新しい機能を追加することに終始しており、そのような進歩にはおのずと限界があります。これまでも、ほぼ10年に一度のペースで旧来のフローを完全に打破し、新しいデータベース、新しいフロー・アーキテクチャ、新しい設計手法によるフローの刷新が必要とされてきました。

シノプシスは、今こそRTL-to-GDS Ⅱ設計フローの
一大変革の時と確信しています。

旧来のアプローチからの脱却を図らない限り、半導体企業は市場投入に遅れをきたし、製品の競争力低下という危機に直面することになります。

本稿は、こうした変革が必要とされるに至った要因を考察し、次世代の設計フローに必要と考えられる条件を提示することを目的に作成しました。まず市場要因として特に影響力の大きい重要市場をいくつか挙げた後、技術要因を取り上げます。次に、次世代のRTL-to-GDSII設計フローをどのように構成すべきか、そしてこの新しいフローがどのようなメリットをもたらすのかについてご説明します。

市場要因

半導体は幅広い産業の原動力となっていますが、いくつかの主要な成長市場では根本的な変化が起こりつつあり、新しい技術革新が求められるようになっています。これらの成長分野では、他の市場よりも新しい専用のSoCおよびその他ICが強く求められています。ここでは、これらの市場要因がなぜ重要なのか、そしてこれらの各市場でツールとフローにどのような革新が求められているのかについて見ていきます。

自動車

現在の自動車はかつてないほどに電子化が進んでいます。その要因の1つはクルマの電動化で、もう1つは運転支援・自動運転です。周囲環境のトラッキングだけをとっても、カメラ、レーダー、超音波センサー、LiDAR、GPSなどの新しい機能が追加されています。これらは、多数の各種プロセッサ、アクセラレータ、I/Oシステム、メモリーと組み合わせて先進運転支援システム(ADAS)やインフォテインメント・システムに接続されます。

完全自動運転車への道は、製造部門だけで9530億ドルの収益規模がある世界の自動車産業に非常に大きな破壊的影響をもたらすことになるでしょう。

今後10年間で自動運転車への移行が加速する中、ビジョン関連システムの中核を支えるAIが存在感を増すことになります。こうしたシステムでは、LiDARやレーダーなど多数の車載カメラから送られる膨大なデータを処理、解析する必要があります。自動車のデータ通信量は1日あたり数十テラバイト(TB)に達することが予想されます。

問題は、現在の半導体技術をどの程度まで自動運転車に流用できるのかという点です。今後の自動車はスマートフォンと同様に通信、エンターテインメント、情報、ナビゲーションの機能を必要とします。しかし自動車がスマートフォンと決定的に異なるのは、パワートレイン制御、ボディ・エレクトロニクス、シャーシ・マネージメント、更には車両全体の安全性などミッション・クリティカルな機能が求められるという点です。今後の自動車とスマートフォンで設計要件にどれだけの違いがあるかを、以下の表に示します。

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表1:自動車とスマートフォンの設計要件の比較

設計者には数多くの課題が存在します。まず、使用するプロセスは成熟した低コストなノードから最先端ノードまで多岐にわたります。デザインは今後ますます大規模で複雑になり、効果的な管理およびチーム設計のためにはより一層の階層化が必要となるでしょう。特に自動運転車では、カー・エレクトロニクスに対する要求レベルが飛躍的に上がります。今後は、自動車にも軍事/航空宇宙アプリケーション並みの信頼性と機能安全が消費者の側と法規制の側の両面から要求されるようになります。

これらのチップでは、信頼性が文字通り死活的に重要になってきます。このため、設計フロー全体を通じて一貫した、収束性の高い解析と最適化を早期段階から取り入れることが必要となります。ツールに要求される機能としては、ビア・トポロジの自動選択・挿入、エレクトロマイグレーションおよびIRドロップ解析、設計ルール・チェック(DRC)エラーの自動修正、メタル・フィル処理、ファウンドリの要求水準を超える電気的ルール・チェックなどがあります。

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図1:車載向けデザインで課題となる信頼性

また、車載向けデザインには機能安全規格(特にISO 26262)への適合も求められます。車載向けチップにはエラー検出メカニズムが必要で、これらの安全メカニズムに故障を注入し、危険回避動作を十分に実行できるだけの余裕をもってこれらの故障を検出できることを検証しなければなりません。また、デザインの電源投入時にセルフテストを実行し、障害の発生や故障を引き起こす可能性のある要因を検出できるようにする必要もあります。システムレベル要件を満たすには、このセルフテストはごく短時間で高い故障検出率を達成する必要があります。

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