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2018 vol.111

生活に溶け込む人工知能

シノプシス プロダクト・マーケティング・マネージャー Michael Thompson

人工知能(AI)とは、環境を認識して人間に役立つような形で応答できる機械を実現する技術です。AIは近年長足の進歩を遂げ大きな注目を集めています。しかしAIの歴史は意外と古く、学術界で「AI」という用語が最初に使われたのは1950年代中頃のことです。AIは近年のプロセッサ技術の進歩によって急速に進化し、メインフレームだけでなく組込みアプリケーションでも利用されるようになっています。シノプシスはAIの最先端をリードしており、AIはその可能性の全貌を明らかにしつつあります。AIがこのまま成熟すれば、あと数年もすると情報へのアクセスや繰り返し作業の方法が変わり、生産性が向上するのはもちろん、私たちの生活が根底から変化することになるでしょう。

人工知能とは何であり、何でないか

「人工知能」という用語を初めて使ったのは、1956年のダートマス会議に出席していたアメリカの計算機科学者、ジョン・マッカーシーでした。現在、AIという用語はクラウド検索、ロボット工学、音声認識、翻訳、エキスパート・システムなど幅広い処理タスクを総称して使われています。AIは大きく「弱いAI」(特化型AI)と「強いAI」(汎用型AI)に分類されます。前者はある決まった問題を解くことに特化したもの、そして後者は未知の問題に直面しても解くことができるものを指します。強いAIはまだ実用化されておらず、現在のAIシステムはすべて特定のタスク専用に設計された弱いAIがベースとなっています。

現在は未知の問題を解くことのできる学習能力を備えた機械の実現を目指してAIの研究が進められており、あと何年かすれば強いAIをベースにしたアプリケーションが登場するでしょう。現在報道されているAIは、Google、Yahoo、Microsoft、Amazonなどの企業がクラウド向けに開発しているアプリケーションがほとんどです。これらももちろん重要ですが、AIの機能がこうした大規模なサーバ・ファームだけでなく、最近は私たちが日頃持ち歩いている組込み機器への搭載も急速に広がっていることはあまり知られていません。

もちろん、AIはコンピュータがデータや感情を巧みに処理しているだけの表面的な知能に過ぎず、本物の知能とは呼べないと主張する人もいます。これは、知能とは何かについての解釈の違いがあるためです。

人間の知能とは、「推論(特に関係推論)を巧みに使うこと」と定義できます。しかしより広義には、「環境を認識して目標達成の可能性が最大となるように動作できる能力」と定義でき、現在のAIはまさにこれに当たります。今後更に進化を続けていけば、AIはいずれ推論の能力も取り込み、人間の知能をしのぐことになりそうです。しかし人間の知能と推論能力は非常に複雑なプロセスであることなど、いくつかの理由によってAIはまだその域には達していません。

現在のAIの用途

AIと聞いて精巧なヒト型ロボットを思い浮かべる人も多いでしょうが、現在のAIはほとんどがAmazon Echoのような機械で、高精度な音声認識(知覚)、高速処理(意思決定)、そして質問に答えたり音楽を再生したり照明をオン/オフしたりするアクション(応答)を組み合わせたものとなっています。認識、意思決定、応答というプロセスは、ほとんどのアプリケーションに共通しています。

認識には多くの形態があり、センサー、カメラ、データベース、話し言葉によるリクエストなどソースもさまざまです。意思決定はプロセッサによって行われ、クラウドとローカル・プロセッサで役割分担することで性能向上を図ることができます。応答も用途によってさまざまで、音声による返答、機械的動作、データベース更新などがあります。

現在使われているAIにはいくつかのレベルがあります。たとえばチェスの対戦に使用されているのは基本的なレベルのAIです。プログラムが相手の指し手を解析し、総当たり方式の計算によって数百から数千もの可能な指し手を検討し、何手も先を読んで最も勝利の確率が高い指し手を決定します。音声認識もしばらく前から利用されていますが、最近は急速に進化し、自然言語認識や翻訳もサポートするようになっています。自然言語認識では相手の話している内容を理解する必要があるため、より高いレベルの演算性能が必要です。翻訳の場合はターゲット言語の構文も理解する必要があるため、更に高いレベルの演算性能が要求されます。このような用途は総当たり方式の計算では対処できず、言語が使用されている文脈と分野を理解するようにコンピュータをプログラムする必要があります。現在のAIは、言語の理解、複雑なデータの解釈、マシン・ビジョン、コンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)のインテリジェントな経路選択、自動運転車などに応用されています。

AIの用途の中でも、マシン・ビジョンはニューラル・ネットワーク技術の利用によって長足の進歩を遂げ、精度が飛躍的に向上しています。ニューラル・ネットワークは人間の脳が学習する方法を模したもので、学習した情報を使用してパターンを認識します。この技術は過去5年間で改良が進み、画像認識やその他のタスクで機械が人間を上回る精度を達成するようになっています。マシン・ビジョンの研究は今も続いており、より高速かつ高精度、そしてよりシンプルなアルゴリズムの開発が進められています。図1は、畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)アルゴリズムを使用してシーン分割と物体識別を実行するマシン・ビジョンの例です。

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図1:マシン・ビジョンによるシーン分割の例(東芝とデンソーの2016年プレス・リリースより)

しかしニューラル・ネットワークの用途はビジョンだけではありません。画像キャプション生成、テキスト生成、文字認識、翻訳、レーダー、オーディオなど多くのアプリケーションへの応用が進んでいます。たとえばNASAは望遠鏡からのデータをニューラル・ネットワーク技術を利用して解析し、新惑星の発見に役立てています。このシステムは人間より精度が高いだけでなく、データ解析も桁違いに高速です。このシステムを使用して、NASAは先ごろ地球から2545光年離れた恒星ケプラー90に8番目の惑星があることを発見しました。太陽系以外で8個の惑星を持つ恒星系が発見されたのはこれが初めてです。

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