これまで、自動車で使用されるメモリーはSRAMや不揮発性メモリーがほとんどでした。これは、比較的小規模なプロセッサしか使われておらず、メモリー要件がそれほど厳しくなかったためです。高度な演算、イメージ処理、グラフィックス・ディスプレイには強力なCPUとDRAMが必要ですが、これらはインフォテインメント・システムでの利用が大半を占め、安全系システムでは使われていませんでした。しかし今、こうした状況が変わろうとしています。先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システムでは強力なプロセッサが必要で、それに伴いDRAMの容量と帯域幅が要求されるようになっています。ただし自動車の安全系システムにDRAMを採用する場合は、その利点だけでなくエラー対策やISO 26262など厳しい車載規格への適合といった問題についても理解しておく必要があります。
車載環境におけるDRAMとSRAMの比較
DRAMチップはホーム/オフィスPC、サーバ、ネットワーキング、モバイル機器、テレビ、セットトップ・ボックスなど多くのコンピューティング機器でメイン・メモリーとして広く利用されています。2015年現在、世界の半導体メーカー上位10社のうち3社がDRAMメーカーで、DRAMチップ出荷数は3社合計で147億個、売上高は450億ドルに達しています[1]。
SRAMは多くの市場でかなり以前からDRAMに置き換えられており、DRAMとSRAMの比は売上高ベースで約100:1となっています[1]。 DRAMデバイスはSRAMに比べ大容量化が容易でビット単価を安くできます。一方、SRAMデバイスはDRAMに比べ信頼性が高く、CPUと同じチップに集積するのも容易です。表1に、車載システムで使用されるDRAMとSRAMの比較を示します。
比較 | DRAM | SRAM |
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ディスクリートか統合型か | LPDDR4規格準拠のディスクリート・コンポーネント | CPUと同じダイに集積、またはディスクリート・コンポーネント |
構造 | 1ビットにつきトランジスタとキャパシタが各1個 | 1ビットにつき6個のトランジスタ |
ビット単価 | 安い | 高い |
ダイ当たりの帯域幅 |
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レイテンシ | ほとんどのコマンドで15~30 ns(代表値)。ただし先行するコマンドによっては大きく増加 |
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一般的なダイ当たり容量 | 4Gb、8Gb | 最大16Mb |
動作温度 | 85℃を超えるとシステム変更が必要 | CPUと同じ温度まで動作可能(デバイスによる) |
信頼性 | 放射線の影響によるソフト・エラーが起こりやすい。一般的なSoCはDRAMに対するエラー訂正機能を実装 | ソフト・エラーが起こりにくい。オンダイSRAMの場合、専用のエラー訂正回路を持たせることも可能 |
リフレッシュ | DRAMデバイスの一部または全体をオフラインにして定期的なリフレッシュが必要。高温ではリフレッシュ頻度が増加 | リフレッシュ不要 |
自動車での主な用途 | ADAS、インフォテインメント、安全に直結する運転支援情報 | エンジン制御、ブレーキ制御、コンソール、車体制御 |
表1:車載アプリケーションで使用されるDRAMとSRAMの比較